michiko-ono's-diary

美術部 書道部の部長の日記

第12話 リクルートとナイスプレイ


わたしの名前は

オノミチコ

 

ティーちゃは 門の所で
リクルートスーツの女性と話をしていた

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本当にリクルート姿だ

美術部の先輩なんだろう
色の白い優しそうな人だった

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わたしは教室に行って
黒板の絵の上から「身体の仕組み」を貼った

三井環君に手伝ってもらった

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ダンス部が始まるまで

まだ大分あるし 部室にでもいるか

 

廊下の窓から校庭を見ると
さっきの女性が

1人で歩いていた

 

 

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わたしは靴に履き替え
部の後輩として挨拶に向かった

 

 


「わたし美術部のオノミチコと言います
部は今 わたし一人なんです 」
自分で言ってて  可哀想になった


「? … ? …ああ 松崎 先生もう
バスケ教えてないのね」

「バスケ?」

 

彼女はそれから ティーちゃの
話を聞かせてくれた

 

彼女の名前は    西村 栄 

 

西村さんがいた頃の
女子バスケ部は 趣味のサークルだった

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試合は遠足だった
会場にいる男の子や  お昼や  おやつ を

楽しむ日だと思っていた

 

 

顧問もこんな感じだった

 

 

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そんな顧問が糖尿病になり
代りに ティーちゃが やって来た

 

 

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前の学校で「行き過ぎた指導」が
あったらしい 詳しい事は分からなかった

 

そんな事情の先生でも   話相手か

 遠足の同伴をしてくれればありがたい

そう思っていた

 

「雷に当たったみたいだった」
西村さんは笑って言った

 

自己紹介で「よろしく」と言った後
パイプ椅子にあぐらで座った

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そして これからやる事を言った
それは 一つだけだった

 

「相手にパスを出させない事」

 

つまり試合中ひたすら相手を追っかける
全力で走り回る     それだけ

 

シュート練習  パス練習 ドリブル練習

それらの物はメニューから消えた

全力の追い駆けっこ  それだけだった

 

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3年はみんな  すぐに辞めた 

30人いた部員は9人になった
そして西村さんは主将になった

 

 

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平日の練習は走り回るだけ

週末は  格上の学校と練習試合
午前と午後で別の学校だった時もあった

 

 

試合中 バスケットらしい事をせず ひたすら
走り回るだけの 西村さん達は

いろんな学校で笑い者になった

 

闘っている 相手の選手も

顔が笑っていた

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ティーちゃは黙って見ているだけだった

せめて叱り飛ばしてくれれば

笑われずに済むのに そう思った


試合が終わると よその学校でも

ランニングをやらされた
辺りが暗くなったから終わりだろうと
思っていたら 夜間照明がついた
ティーちゃがその学校の先生に頼んだのだ

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なんでこんな目に合うんだろう

一生懸命  駆けずり回って

笑い物にされる

 


確かに取られる点は減った
でも まだ 到底試合では勝てない

それでも全力で相手を追い駆け回す

 

 キチガイみたいだ
西村さん達は 確かに
少しづつ変化をしていった



自虐的な気分のせいか
「今日こそ ぶっ倒れてやる」

「栄 私に万歩計を持って来て」

 

そんな事を言い合った

そしてみんな目つきが変わった

 

 

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夏の大会の初戦 お世辞にも強いと
言えない学校に 勝った 初めての勝利だった

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でも抱き合って喜び合ったり出来なかった

何故か喜べなかった

 

その試合の後  みんな何も言わずに
ランニングを始めた

 

 

少しづつ試合に

勝てるようになった

 

ティーちゃのいない時間

朝練や   放課後の練習が終わった後  

残ってシュートや ドリブルの練習をした

 

しかし時間はもう無かった

 

最後の大会

西村さん達は一回戦で全国大会に出るような
強豪校と当たる

 

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地球がひっくり返っても勝てない

これが引退試合だった

 

 


最後の試合が始まった

 

ティーちゃは 腕を組んだまま座っていた

いつも通り なにも変わらなかった

 

試合も予想通りだった
前半で50点くらい入れられた

こっちはボールに触ることもできない

 

パス回しが早すぎて

動きに全くついていけない

どう予測して動いても間に合わない

 

西村さん達は タイムアウトの時

話し合った  この試合は

「NBA vs 牧羊犬 」だ

 

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西村さん達はもうバスケットをしようと
思うのをやめた

 

 ボールを奪い取ってやる

それだけだった

 

気を失うんじゃないかと

思うぐらい走った

噛み付いてやると思って走った

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考えず突っ走って 相手のフェイント
にひっかかる

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 勢いがあり過ぎて 相手のベンチに突っ込む

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でも相手の選手も

会場の人達も
西村さん達を見て笑わなかった


そして試合時間は終わりに近づいてくる
もう体力も何も残っていなかった


だめだ

取れない

どうしても追いつけない

 

こんなに走ったのは

なんの為だったんだろう

 

あと少しで全て終わる

 

わたしは駆けずり回って

何かを手にしただろうか

 

 どうせもう終わる

 

そしたら

 

もう

 

走らなくていい

 

 

 

西村さん足が一瞬止まった   その時だった

 

 

 

 

「ナイスプレイ!」

 

 

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ティーちゃが会場に響くような大きな声で
叫んでいた

 

 

 

 

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「ナイスプレイ!」

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「ナイスプレイ!」

 

 

 

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 「ナイスプレイ!」

 

 

 

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「ナイスプレイ!」 

 

 

 

 

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「ナイスプレイ!」

 

 

 

 

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「ナイスプレイ!」

 

 

 

 

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「ナイスプレイ!」

 

 

 

「ナイスプレイ!」

 

 

 

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「ナイスプレイ!」

 

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「ナイスプレイ!」

 

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「ナイスプレイ!」

 

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「ナイスプレイ!」

 

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ナイスプレイ!

 

 

 

ナイスプレイ!

 

 

 

ナイスプレイ!

 

 

 

ナイスプレイ!

 

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「ぎゃ こんな時間!!面接遅刻する!


さよならオノさん

 

貴方なら  きっと大丈夫よ 」

 

 

 

 

西村さんは門に向かって走って行った

 

 

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そして派手に転倒した

 

履きなれない靴のせいか

着慣れないスーツのせいかわからない

 

わたしは
心の中で言っていた

 

 

 

ナイスプレイ


あとがき

西村栄が最後の方に 右見て 左見て
みたいなシーンは今だにお気に入りである