わたしの名前は
オノミチコ
西村さんは
リストバンドをわたしにくれた
私は校庭に出たついでに
ジンくんの所に向かった
場所は校舎の裏
非常階段の1番下
正確にはその更に裏
ジン君は毎年 文化祭の時
ここで やって来た 生徒を相手に
一対一で お話しをしている
國分 仁
両親がヒッピーで
一輪車で買い物に行く様な人達
家は一週間の献立が決まっていて
テレビがない
当然 ジン君も 一風変わっている
こんな所で 寄席みたいな事してるのも
そのせいかもしれない
ジン君はわたしが来たのを見て
お馴染みのボードを出した
「‥やっぱり今年もカテゴリーの
説明は無し?」
「ルールだから」
「腕は平気?」
「痒い」
ジン君は何故かよく骨折している
たしか去年も骨折していた
去年は宿泊学習 今年は体育祭の練習の時
本人は「時期だろう」と言っている
見たら落書きがされていた
誰がしたかは だいたい検討がついた
「① は今日 誰か聞いた?」
「企業秘密」
ジン君は去年の夏頃テニス部の
小嶋さんに恋をした
そして長い片想いの末
この前 フラれた
わたしは去年のボードを思い出した
今ならあの浮かれていた時に
書かれただろうカテゴリーは
全て解る
①小嶋さんの事
②小嶋さんが好きなマンガに出て来る詩
③小嶋さんが好きなバンドの曲
④小嶋さんが好きな小説
で間違い無いだろう
とすると今年 小嶋さんネタっぽく無いのは
「③で」
「オノさんは当たりを引きました
これは自信作です
タイトルは‥」
‥ デンジャーデンジャーがタイトルじゃ
ないのか?
「わたしを離さないで」
‥なんか 今朝 それテレビで聞いたし
ジン君が始めた話はこんな話だった
団地の公園で双子の姉妹が遊んでいる
他に人が居なく 静かである
双子は鉄棒で遊んでいた
そのうち妹が テレビで見た これを
やってみたいと思った
すると 出来てしまった
しかも座れた
姉が驚いて見ていたら
妹の表情が固まっている
理由は手が離せたからだ
姉は自分でもやってみた
出来た
実ここからが問題だった
戻れないのである
お互い重力が下にかかる
つまり地面は巨大な壁に変わってしまった
じゃあ どこが地面になるのか
ジン君はもう一枚のボードに描いて
状況を説明してくれた
つまりこうだ
2人はものすごい高さの壁からでた
一本の鉄の棒に座っている事になってしまった
2人は助けてと 叫んだが
だれも来ない
だんだんお尻が痛くなるし
バランスが悪くなってきて
フラフラしてくる
このままだとお互い 足の下にある団地に
落っこちてしまう
2人は一生懸命考えた結果
あそこの建物の間に行く事にした
あそこなら
高さがあまり無く
広い地面がある
そこで待っていれば
誰か助けてくれるはず
あとはあそこ迄行く方法だ
2人が取った作戦は お互いの
足の裏を合わせて
2人の足が お互いの地面に
なって歩く方法だった
恐る恐るやってみた
足を出すタイミングがズレたらお終い
2人は極限に集中していた
一歩
一歩
一歩
一歩
自分と全く同じ体重が
自分にかかる
お互いが 自分1人になった感じがした
2人は無事 建物の間迄来て
1人が向きを変え
ズレた瞬間に手を握り合った
「もう わたしを離していいよ」
そして2人は無事着地した
話はこれだけだった
一切の質問も ジン君は
受け付け無かった
わたしはリストバンドを握り締めていた
話が 終わった ジン君は
何故か少し寂しそうに 見えた
そうか
もう来年はジン君の話
聞けないんだ
ジン君もここを
居なくなるの
寂しいのかな
わたしの 勝手な想像だ
わたしは急に心細くなって マジックを借りて
ジン君の三角巾に名前を書いた
空いてるスペースがそこしかなかった
それから 交換条件である
わたしの 話を始めた
「わたしの名前は
オノミチコ‥
あとがき
ホワイトボードを一番 上手く利用できた
双子をイラストで描いたら 多分
イメージはだいぶ変わっているだろう