わたしの名前は
オノミチコ
美術部の部長だ
わたししか 部員がいないから
わたしが 部長をやるしかない
美術部は出来上がった作品を
ロビーに展示している
でもわたしは
一点も展示したことがない
「なかなか仕上がりません」
と 嘘をついている
ほんとは
みんなに見られるのがコワイ
情け無い 部長だ
去年の部長は ちがった
大関いずみ だ
大関いずみ は天才だった
わたしが 美術部だと言えば
「ああ 大関さんの」
と みんな言う
最後の文化祭で
大関いずみ は 『伝説 』になった
『天才 大関』
『大関のいた美術部』
卒業してから
部長はさらに神格化されていった
わたしはとても部長
みたいにはなれない
部長がいたときは
美術部の部員であることが
誇りだった
部長が新作を描きあげると
必ず 展示を手伝いに行った
ロビーは わたしの 聖域だった
でも今 聖域は
ただの 白い壁だ
なにも 飾らなければ
だれも 見ない
ただの 壁だ
壁だから 何も言われない
言われないから
傷つかない
壁だ
そのなにもない 白い壁を
アカバネ君が見ていた
アカバネ君は野球部だ
でも試合に出たことがない
補欠の補欠だ
もう受験なんだし
部活に行かなくても
怒られないのに
アカバネ君は 毎日グランドに
に立っていた
怒られても どなられても
アカバネ君はグランドに
立っていた
そのアカバネ君が
白い壁 の前に 立っている
きっとアカバネ君も
このロビーで
部長の絵を見るのが
好きだったんだろう
アカバネ君を見ていたら
部長の 後ろ姿を
思い出した
なんで 後ろ姿なんだろう
それに
なんで
今 思い出すんだろう
部長は1人のとき
なにを 思っていたんだろう
1人になった わたしは
その部長の気持を
もういいかげん
理解しなければいけない
いや 理解=行動
行動 しなければ意味が無い
わたしは 部室に向かった
部長が立っていた場所は
アカバネ君が 毎日立っている
グランドと 同じ場所だ
わたしも やっと今から
そこに立つ
あとがき
運動部やヤンキーではよくあるが
美術部で 伝説の先輩って
あまり出ない
文化系の部活が活躍する話も
なんとなく大勢の友情の話だったりする
1人ポツンとしている才能を
描いてみたかった